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東北大学 事業支援機構 総合技術部

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2022.03.01 業務紹介

天然記念物「青葉山」の保全と管理 2つの”G” ー令和3年の活動を振り返ってー

東北大学植物園は藩政時代から保護されてきた仙台城御裏林(おうらばやし)の地域を中心に、東北大学が昭和33年(1958年)に理学部附属青葉山植物園として開設した全面積約52haの自然植物園です。ここに生育するモミ林が分布北限に位置し、植生状態がよく保存されている貴重性などから昭和47年(1972年)に本園敷地の約38haが国指定天然記念物「青葉山」に指定されました。青葉山の自然林のもつ多様な生態系サービスは大学の研究教育に資する他、植物学・生物学の展示解説・普及活動を付与して一般市民に広く公開することで、高い文化的サービスの提供にもなっています。

 本園の技術職員は、植物の育成技術やランドスケープ管理技術といったガーデナー(Gardener)としての役割を担っています。また、文化財の保護・保全のうち、特に植物のガーディアン(Guardian)として、植物の不正利用などリスク対応のほか、植栽・自然解説展示、自然保護・保全に関する普及活動を行っています。これら2つのGの役割を通じて、天然記念物「青葉山」の生態系サービスを利用者が活用しやすいように仲立ちするとともに、適切に維持することで次世代につながるように心がけて業務にあたっております。

大学研究教育支援

 本園には約680種類の維管束植物が生育するとされており、技術職員は巡回時に植生の観察を通じて、盗掘など不正利用の確認・対応や、植物の生育状況の確認など教育研究支援のための情報収集に努めています。本園は暖地系と寒地系の植物の分布が重なる地域として知られており、気候変動による温暖化がいわれる今日、それら植物の生育状況や消長を長期にわたり観察することは植生の管理上重要です。

 令和3年は他大学の依頼を受けてイヌブナの葉の試料採取のため、適地への案内や採取支援を行いました。イヌブナ(図1,2)は本州の太平洋側の植生を代表する樹種の1つとして知られています。日本海側にはより寒冷な気候に適応したブナ(図3)が優占します。本園の観察路沿いではよく似た両種が生育しており、一部混生しています。そのため、天然記念物「青葉山」の価値を損ねないように事前の確認や調整を経て、通常の維持管理の範囲内で種同定や試料提供できる個体の選定などの協力をしました。コロナ禍ということもあり、マスク着用などの感染症対策を講じ、対面時間を短くするよう心がけました。

社会貢献

 令和3年はコロナ禍のため、秋季の11月4日〜11月30日の約1か月間のみ、開園範囲を限定して一般公開事業を行いました。その間、「植物名札小考」と題したミニ企画として植物園だよりの発行(図4)と関連展示(図5)を行いました。

 長期的な取り組みとしては、ヤマナラシの苗を外部提供するために、灌水や施肥などを実施しながら育苗試験をしました。近年、伝統工芸品の作成については、使用する天然由来の材料の入手や、栽培者の育成・継承が困難になってきており、持続的に資材を確保する試みは重要と考えています。そのような植物の1つにヤナギ科植物のヤマナラシがあります。本園初代園長 木村有香教授がヤナギ科植物の世界的な分類学者として高名だったということもあり、本園にはその研究活動で収集され、また後に追加導入されたヤナギ科植物コレクションが先輩技術職員によって代々引き継がれており、栽培方法など系統保存の実績があります。

 ヤマナラシは主に丘陵地に生育するヤナギ科の高木で、根茎から新たなシュートが発生する性質があります(図6)。この性質は高木において顕著で、生育状況が良い個体では親木の周辺部に多くのシュートが発生します。このシュートを利用することで移植に適した苗を育成することが可能になると考えています。将来的には文化財保護に必要な調整と手続きを経て、出所来歴が明らかな国内産のヤマナラシの苗の育成技術の確立と提供につなげてゆきたいと考えています。

 

末筆となりますが、本稿をまとめるにあたり、東北大学植物園 牧雅之園長ならびに大山幹成助教より有益なご意見を賜わりました。記して感謝いたします。

 

【総合技術部生物・生命科学群 植物施設管理グループ植物園管理チーム
(東北大学植物園) 津久井孝博、関正典、千國友子、大内匠】

 

図1. 園内に自生するイヌブナ

図2. イヌブナの葉(裏)

図3. ブナの葉(裏)

図4. 作成した植物園だより第60号(表面)
植物園入口にて入園者に無料配布された

図5. 復刻展示された手書きによる旧式植物ラベル
ラベルの下部に解説キャプションを取り付けて植栽植物に設置した

図6. 芝生広場内に発生したヤマナラシのシュート

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