#04

技術とひと

2024.02.14

安全・保守管理群 寒剤グループインタビュー

安全・保守管理群(以下、安全群)は日々の研究活動を支える業務が中心のため、成果が見えにくい特徴があります。その業務は学術研究に直結した重要な役割を担っているのにも関わらず、学内での認知度が低いことに懸念を抱いている安全群の職員もいるそうです。そこで、安全群についてもっと皆さんに知っていただけるようグループインタビューを合同で実施しました。今回は、安全群代表の村上さんと安全群のグループの一つである寒剤供給グループ長の細倉さん、寒剤供給チームリーダーの菊地さん、チームメンバーの緒方さんに業務内容の紹介やどのような志を持って毎日の業務にあたっているかお話を伺いました。

安全群に求められていること

安全群は、総合技術部の中でどのような役割を担っていると考えていますか。 村上大学での教育・研究活動においては、化学物質の取扱いや放射線の利用、また各種実験を行う場合には、法令に則り、安全に教育・研究を行わなければならず、そのための環境や設備が必要です。我々は、皆さんが大学で安心して働けるよう、また教育が受けられるよう、必要なルールや対策を講じながら教育研究の支援を行っています。

現在の安全群の大学や総合技術部での立ち位置をどのように考えていますか。 村上安心して教育研究活動を行う上で、必要不可欠な職群です。
その一言に尽きます。事故が起きてからの対策では遅いので、事故が起こる前に予測、発見し、その対策を講じていなければなりません。専門知識・技術・経験を活かし、互いに共有し連携しながら活動しています。


細倉安全群は化学物質管理、高圧ガス、施設管理、放射線等、専門的でいろいろな技術や知識が要求される職務だと思います。安全は大学にも求められていることのひとつですし、各職群それぞれにも関わりがありますね。
コロナ禍の影響で3年ぶりに学生実験を始めたのですが、教える方も3年間のブランクにより、実験について現場での教育が抜けてしまい、大学内で事故が起きやすくなっています。
なので、まず、事故を起こさないよう大学全体の安全に関わることを安全群はやっていく必要があると考えています。

知られていない寒剤供給グループの業務

寒剤供給グループの話に移りますが、職場はどちらのキャンパスでしょうか。 細倉私と緒方は金属材料研究所が管理している片平の極低温科学センター(以下、センター)で勤務しているのですが、当センターは片平キャンパス、星陵キャンパスの液体寒剤の供給をカバーしています。菊地の所属する理学部が管理している青葉山のセンターは青葉山全部です。

緒方片平のセンターには昔は5名の技術職員がいたのですが、現在は2名で働いています。

菊地青葉山のセンターは今ですと、技術職員2名と技術補佐員1名の3名です。

寒剤の研究における役割について教えてください。 細倉一般に使われる寒剤とは、2つ以上の物質を混合することで低温が得られる冷却剤のことを言いますが、大学で使う寒剤とは、主に液体窒素と液体ヘリウムの2つを指します。病院だと液体酸素も使いますが、私達が取り扱うことはあまり無いです。
寒剤の利用者の主な研究対象は、生物・生命領域、低温分野などで、具体的には試料の保管、NMRや電子顕微鏡、MRIや超伝導マグネットなどに寒剤が使用されています。病院で使うMRIも含まれるのですが、液体ヘリウムで超伝導マグネットを冷やして超伝導状態にします。研究ではその磁場の中で測定をしたり、新しい材料を作ったりしていますので、寒剤の供給が滞ると研究が止まってしまいます。

業務内容について教えてください。 細倉液体窒素は、比較的簡単に空気中から作れるので、昔はサブセンターでも作っていた時期がありました。現在は業者から購入し、各部局のCEタンクに充填し、そこから利用者が汲み出して各研究室で使われています。
一方、液体ヘリウムは液体窒素と比べて温度がさらに低く、非常に高価で貴重なガスです。そのため、使用後のガス化したヘリウムはすべて回収し、部局ごとにあるガスバックに集め、地下の配管を通してセンターへ送ります。センターでは一旦ボンベに入れて、溜まったガスをヘリウム液化機(以下、液化機)により再液化し再び部局に供給しますので、ガスの回収も大切な業務です。


ヘリウム液化機の作業風景(片平)

1日または1週間、1か月の業務の流れについて教えてください。 細倉1週間に液化機を動かすのは3日、後の2日は色々な書類作成をしています。液化機は1時間に200Lの液体ヘリウムを作ることが出来ます。ただし、週初めの月曜日は、土日を挟んで液化機の温度が上がっているので、朝から動かしても冷えるまでに2-3時間かかり、それからやっと液体が出ます。溜まった液体ヘリウムを周りが真空になった大きい魔法瓶のような液体ヘリウム容器に汲み出して、1日10本くらいを供給しています。

菊地青葉山のセンターでも液化機を一日中(週に1,2回)動かしながら、容器に充填しています。ただ、供給量に関しては片平のセンターが圧倒的に多いですね。

細倉供給した液体ヘリウムを使ったら、当然ヘリウムガスになるので、この回収作業が24時間となりますね。この回収ガスに関してはこちらでは制御できません。液体ヘリウムの供給量は液化機の稼働で制御できるのですが、利用者の手に渡った後は、いつ使われるかは分からないので、常にヘリウムのガスバックを監視して量と純度をチェックしています。
液体ヘリウムの供給が主な業務ですが、ヘリウムガスの回収の方が、大変な作業です。ガスの回収率や純度が悪い場合は、問題の箇所の特定などに時間を取られてしまいます。利用者からヘリウムガスが漏れていると言われることがあれば、私たちが行って確認しますし、指導もします。


菊地他の職群の利用者対応と違う点は、測定依頼者との1対1ではなく、その時利用している全ての利用者が対象となる点です。

繁忙期などはあるのですか。 緒方供給量的には12月や1月などの論文を書く前とか、学会前の時期ですね。実験が集中しだすので。

菊地あとは長期休暇や連休前後など。休暇中にもヘリウムガスが還ってくるので、その受け入れ環境を作るために液化機を動かしたり、休暇明けもメンテナンスや貯まったガスを液化したりと、普段とは違うイレギュラーな作業をする必要があります。

緒方ガスの貯蔵量も決まっていますので、その中で液体とガスのバランスを上手く保つ必要があります。

細倉金曜日は月曜日の供給分を準備しつつ、ボンベを空にしてガスの回収スペースを確保する作業が入るし、月曜日は回収ボンベがいっぱいになっているのでガスの量を見て適切に液化機を動かす作業があります。

バランスが大事なのですね。細倉センターは全てバランスですね。利用者の中には、液体ヘリウムを使えさえすればいい、とあまり回収のことを考えてない方もいます。水と同じで、水を使用しても下水のことまでは考えない人がいることと似た感じでしょうか。使えて当然ではなく、液体ヘリウムの適切な供給と維持には陰の苦労があることも知っていただきたいです。

では、利用者にこれだけは言っておきたいことはありますか。 緒方ヘリウムガスの回収率も大事なのですが、純度が悪くならないような使い方をしていただきたいです。回収ガスの監視をしている中で、ちょっと純度が悪くなってきたなと感じたところで対処できれば1-2日で何とかなるのですが、気づかずにそのままでいると、そこから戻ってくる純度が悪くなった回収ガスを我々の方でどうやって処理するかという問題があって。またそれで延々と液化機に張り付く必要もあって大変な作業となります。

菊地私も同じく純度と回収率ですね。青葉山のセンターも頻繁に純度の悪いガスが流れてくることがあります。どこかバルブが少し開いていただけでも、そこからヘリウムガスは逃げていくし、空気も入ってくるし。 ヘリウムは手に入りにくく、業者から購入する価格も高騰しています。適切な回収率と純度が保たれると利用者もヘリウムが安く利用できますので、気を配っていただけると非常に助かります。


液体ヘリウム容器のトラック積み込み作業(青葉山)

安全群として、技術職員として

やりがいや、心がけていること、大事にしていることはありますか。 細倉大事にしていることは安全です。私たちは高圧ガス製造保安責任者や第一種圧力容器取扱作業主任者の有資格者ですので、何かあれば私達の責任になるし、大きな事故にもつながる可能性がある業務となります。

緒方安全群で巡視を担当している方は、作業場等を実際に見て、安全衛生上の問題点をみつけ改善して相手の安全につなげることが仕事ですが、我々は低温技術講習会を通して、安全に寒剤を使用するための指導を行い、利用者の皆さんに安全に作業していただくと同時に、我々自身も安全に作業しなければいけないという仕事です。我々の場合、一つの事故がキャンパス全体への被害となりかねないので、安全が一番です。

菊地液体窒素を使った事故とか、度々コロナ前からも見聞きはしていましたので、そういったところを注意喚起できればと思います。安全群としては地道に注意喚起を続けるのが大事ですよね。

危険や事故とは具体的にどのようなものでしょうか 細倉高圧ガス容器には14.7MPaという強い圧力がかかっているので、取り扱いを誤ると大変危険です。液体ヘリウム・液体窒素に関しては、液体からガスになる時に700-800倍に急激に膨らみますので、配管などに封じ込められることで配管が破裂します。他にも室内でこぼせば酸欠に、不用意に触ると凍傷等になります。

片平のセンターはもともと5名が勤務されていたと伺いましたが、現在2名となると安全管理を行う上でも、通常業務を行う上でも負担が大きいですよね。安全群や総合技術部に対して要望などはありますか。細倉安全に関する責任や負担が大きいことは総合技術部にもきちんと認識していただきたいです。

菊地青葉山も同じですね。安全に作業をするためには、余裕というか、専念して作業できる環境が大事だと思います。多忙になり、作業途中に他の業務が入り込むようだと、どうしても、うっかりミスが出て事故につながりかねないので、安全に取り組むための人員配置などが適切になされるといいのかと思います。

緒方業務がある程度こなせるようになるまで3-4年は必要です。利用者対応にも経験値は重要で、時間がかかります。ノウハウや経験の引継ぎも十分にできるような体制だといいですね。

寒剤グループとしての今後の目標、思い描くビジョンを教えてください 細倉寒剤グループに限らないのですが、技術職員として、私たちが業務を行う対象は研究者ですけれども、これからの大学にとって大事にしていかなければいけないのは学生だと思っています。
コロナの影響もあるかもしれませんが、昔は芋煮会やソフトボール大会など色々なイベントがあったし、学生とも距離が近かったような気がします。学生がオペレーター室に遊びに来て雑談をしたり、相談されたりということもありました。今はそういうことがなくなってきているような気がします。
私たち技術職員というのは技術も大事ですけれども、学生と近くなる役割を持っていていいのかなと思います。密なコミュニケーションは安全にもつながっていきますし、学生が楽しく安全に勉強や実験ができる環境を作っていくことも大事なのかなと思います。


緒方大したことがないことでも話してもらえるような関係性を築いて、気軽に声掛けができるようになることは大事ですね。コミュニケーションが少ないと、危ないことをやっていたとしても気づきにくいですし。

菊地技術職員は研究の基盤、実験環境を支えている職員ですので、学生さんにとってもより安全で使いやすい環境を提供できればと思います。

撮影・取材:広報担当部会取材班

Profile

  • 細倉和則
    ほそくら・かずのり
    安全・保守管理群 寒剤供給グループ グループ長 技術専門職員
    1990年度採用 ヘリウム液化機の運転・保守管理、液体寒剤の供給・管理、高圧ガス製造施設・回収設備の保守管理、寒剤利用者への安全教育・指導
    自宅でもやっている好きな安全対策:扉が開かないように耐震ロック取り付け

Profile

  • 菊地将史
    きくち・まさふみ
    安全・保守管理群 寒剤供給グループ 寒剤供給チーム チームリーダー 技術専門職員
    1997年度採用 ヘリウム液化機の運転・保守管理、液体寒剤の供給・管理、高圧ガス製造施設・回収設備の保守管理
    自宅でもやっている好きな安全対策:家具や家電に転倒防止用耐震マットを貼る

Profile

  • 緒方亜里
    おがた・あさと
    安全・保守管理群 寒剤供給グループ 寒剤供給チーム 技術専門職員
    2008年度採用 ヘリウム液化機の運転・保守管理、液体寒剤の供給・管理、高圧ガス製造施設・回収設備の保守管理、寒剤利用者への安全教育・指導
    自宅でもやっている好きな安全対策:階段に滑り止めシートを貼る

Profile

  • 村上義弘
    むらかみ・よしひろ
    分析・評価・観測群 統括技術専門員(安全・保守管理群 代表)
    金属材料研究所 テクニカルセンター(センター長)
    1984年度採用 機器分析・・・など
    自宅でもやっている好きな安全対策:突っ張り棒での転倒防止、棚扉のロック、角にクッション

Profile

  • 安全・保守管理群