#06

技術とひと

2025.04.18

安全・保守管理群 施設運用グループ 施設総合管理チームインタビュー

安全・保守管理群(以下、安全群)は日々の研究活動を支える業務が中心のため、成果が見えにくい特徴があります。その中でも施設総合管理チームは、事務部の施設系職員が行う一般的な施設管理ではカバーしていない特色ある施設・設備に対して幅広い支援業務にあたっています。今回は、女川フィールドセンター(以下、女川センター)の鈴木さんを中心に、片平地区にある多元物質科学研究所(以下、多元研)の仲下さん、電気通信研究所(以下、通研)の柳生さん、青葉山の未来科学技術共同研究センター(以下、未来センター)の上石さんの4名に、業務内容の紹介やどのようなご苦労をされながら毎日の業務にあたっているかお話を伺いし、残念ながら当日参加が叶わなかったチームリーダーの前田さんより一言頂きました。

多岐にわたって支える「縁の下の力持ち」

施設運用グループ 施設総合管理チームではどのような業務をされているのかをお伺いしていきたいと思います。まず、実際の日常業務や仕事の流れについて教えてください。 仲下主に多元研の寒剤設備の点検管理、寒剤の搬入出や異常時対応および法令対応にあたっています。多元研では建物に100L液体窒素容器を置いており、誰でも直接汲み出して使用できるのですが、その容器管理を毎日の業務としています。

柳生 通研の研究基盤技術センターで安全衛生管理室業務を中心に、寒剤の搬入出や廃薬品の管理、物品の安全な廃棄等の色々な相談などにあたっています。2025年度には新棟への引っ越しがあるので、引越し準備のため廃棄作業と並行して危険物の確認を日々行っています。

上石 未来センターでは、チームリーダーの前田と2名で支援にあたっています。年間10件を超える入れ替わりの激しい研究室スペースの提供と、その安全管理を担っています。また、未来センターの先生方の中には離れた場所に研究スペースをお持ちの方もいらっしゃるので、諸々の手続きを含めた安全面の調整にも配慮しています。

鈴木 女川センターは宮城県牡鹿郡女川町にある小乗浜漁港の目の前に、農学部・農学研究科の附属施設として設けられています。主に海の環境・生き物・海水等の研究に供されていますが、農学部・農学研究科の各学年のフィールド実習でも利用され、新1年生全員を対象とした日帰り実習をはじめ、夏期には海洋コース学部生による宿泊を伴った実習も行われています。教員を除く職員は現在3名おりまして、技術職員の私、鈴木と、主に船舶担当で再雇用職員の平塚、主に寄宿舎フロア担当の臨時用務員の四戸がセンターの運営に係る業務に対応しています。
通常業務としては、海水揚水ポンプや他ポンプ類の経路を含む維持管理、および所属船舶の維持管理が中心となりますが、他にも施設運営に係る部分(高圧受電盤などのすべての設備)の維持管理も大切な業務となります。また事務職員が在籍していないため、一般的な事務作業をはじめ、予算管理、寄宿舎を含む施設使用に係る予約管理なども行いつつ、必要時には除草作業等環境整備業務にもあたります。
その他としては、有資格業者による設備点検立会いや施設利用者に対する避難経路・施設使用方法等の説明案内、また施設の視察がある場合はその対応も行います。 業務上物事が集中し大変な時もありますが、ある程度の調整は可能なので、無理のない範囲で業務を行っております。小人数での施設運営ですので色々と課題はありますが、できる事できない事を十分周知し、関係者の協力を得ながら業務を行っています。


ポンプ室での海水ろ過装置制御盤の点検確認

日々の業務を通して、どんな役割を果たしているのでしょうか。 仲下 寒剤は高圧かつ極めて低温なため、取り扱いには注意が必要です。重大な事故に繋がらないよう配慮し、安定的な寒剤供給する役割と責任を担っています。

柳生 安全保守管理は活動実績に直結するものではないが、日頃からの地道な備えが求められる、所謂「面倒くさいこと」が業務です。けれど誰かがやらなきゃ研究活動に支障が生じる必須の業務でもあります。あらゆる関係者の「面倒くさい」を担うことで教職員や学生の活動を支える役割を果たしているのです。

鈴木 「縁の下の力持ち」の存在だと思います。大学・学術研究組織に於いて、ライフラインを含む施設設備を良好な状態に保つ事は非常に重要と考えます。これは研究に直接必要な機器類に限った話ではなく、例えば研究施設の各居室に於ける、電気・水道・ガスの関連設備類、エアコンなど空調機器類、インターネット・電話などの通信機器類、トイレ・洗面などの衛生関連機器類、他にも机・椅子などの什器類から建物全体の維持状態云々まで関係します。これらについて基本的には管理する必要がありますが、表舞台に立つ先生方がすべてを管理する事は困難ですので、それを補完する立場の人員が必要です。部局により様々かと思いますが、女川センターでは施設総合管理の一環として技術職員がその役割を担っております。

ありふれた日常の維持を願って

達成感や苦労など、これまでで特に印象に残っているのはどんなことでしょうか。 鈴木 2011年3月発生の東日本大震災の大津波で被災した女川センターの復旧・復興業務です。当センターは15m近い大津波により施設全体が完全に水没・壊滅したため、現地での業務継続がしばらくの間不可能な状況でした。当時は出来る範囲での事務処理と当センターの復興のための瓦礫撤去作業に邁進したのですが、現地も自宅も共に被災しており色々と困難な状況でありました。また、船長の英断による沖だしで被災を免れた所属船舶(当時は2隻)は、係留場所の探索を含めた船体の維持管理についても苦労が絶えませんでした。
被災した一部の建物をリフォームした仮事務所で業務が始まった後は、現在の総合研究棟である5階建ての施設建物・設備等が復興していく流れとなりましたが、新築建物に係る業務、物品調達業務等に追われ、建物・設備等の配置から、例えば寄宿舎の寝具類・食器類・調理器具類の調達、はては鉛筆の購入に係る事まで、ありとあらゆる物を『無』の状態から立ち上げる必要があったため困難と多忙を極めました。この時はさすがに参りましたが、関係する皆様方より沢山のご助力をいただき、なんとか完了する事が出来たことは大変印象深いです。


インタビューの様子

仲下慣れるまでは寒剤の取り扱いに緊張してしまい円滑な作業が出来なかったのですが、トラブルなく作業ができるようになって自信がついた際には達成感を感じましたね。

柳生通研では新2号館を建設中で引っ越し準備をしていますが、かなり昔から放置された大量の廃棄物がありその整理を今行っています。結構危ない薬品や中身のわからない試料もあって、中には実験試料の箱を開けたら「チェレンコフ光確認!」と書かれた試料を発見して、サーベイメータが出動する騒ぎもありました。チェレンコフ光は非常に強い放射線による現象のため本当であれば大変危険なのですが、幸いいたずら書きで。こんな例もあって、廃棄するにしても専門的な知識がないとよくわからないものも多々あり、いろんな苦労を経て空きスペースが確保できた時は達成感ありましたね。

上石 達成感というよりは、今もありふれた日常が続くように業務にあたる感じです。

目立って褒められず、結果が出ても流されて終わるような経験が多い中でも、色々奮闘されているのですね。 鈴木 結局、問題が起きないようにする事が仕事なんですよね。問題が起きれば研究に支障が出てしまうので、そういう事態にならないよう日々管理する事が基本だと思っています。毎日同じことの繰り返しに達成感はなかなか感じにくいです。
そのような日常の中でも、かつて所属していた「翠晧(すいこう)」という名の総トン数19トン、最大搭載人員45人という結構大きな調査実習船の維持管理業務が思い出されます。船舶の定期的な維持管理では、船底に海生付着物が付き船速や燃費に悪影響が出る事を軽減するために船底掃除および塗装を行いますが、「翠晧」は船体が大きいため地元女川のレール式楊船台では陸に揚げる事はできず、より大きなレール式楊船台のある石巻の造船所まで運行し上架する必要がありました。また、「翠晧」は6年毎に船体定期検査(中3年で中間検査)を受検する必要があり、状態によっては主機・補機・プロペラシャフト等機関及び航海計器類等の内部状況の分解確認などを含めた、大規模な内容で実施しなければいけない時もありました。以上の様に「翠晧」については大きな予算が絡む業務が多かったため、仕様作成から予算確保を経て、場合によっては入札の後に工事を行いその完了までと、女川センターのみでは不可能な事柄を、農学部事務部を巻き込んで協力いただきながらの一大事業でしたので、それぞれ無事に完了した時の達成感は他には得難いものがありました。
また最近の事となりますが、変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)という、海洋環境の変化に対する生態系の応答・適応メカニズムを解明するための枠組が組織され、農学研究科、JAMSTEC、そしてハワイ大学等が協力し研究を進める世界的なプロジェクトが始まりました。その流れで当センターへも海外の研究者が来訪するようになり、先日も宿泊を伴ったワークショップが開催されたのですが、海外からの来訪者より施設に関する問い合わせを受けた際、私自身は英語が不得意な事もあり理解不能な言葉も多い中で、とにかく身振り手振りでお伝えする様に努力し少しでも分かっていただけたような時は、ささやかではありますが達成感を感じました。

未然防止に繋ぐ

施設運用グループ 施設総合管理チームとしての情報交換で課題とするところがあれば教えてください。 上石 施設総合管理の業務にあたるうえで情報交換したいのって、上手くいかなかった事例なんです。それをもとに失敗を未然に防ぐような努力を重ねていかなければならない。自分の経験例をあげると、未来センターのような入居者が頻繁に入れ替わる施設で、局所排気装置の配管を施設の附属物としてしまったのです。この場合は入居者が変わっても、配管は繰り返し使用することになります。そうすると配管が壊れてしまった際、どの時期の入居者の責任になるのかという問題が生じてしまう。これを避けるには、配管については入居者負担で入居時に設置、退去時には原状回復をしてもらうと、あらかじめ決めておく必要があります。ただ、そういったことを事前に気が付くのはなかなか難しい。そういった情報を共有できたら、よいと考えています。

失敗が将来の全員の糧となる、これはどの組織でも大切なことですね。 柳生建物関係の問題っていうのは多々あって、他部局がどうなってるのかっていうのも非常に知りたいですよね。通研は今新棟を建設中で、今更設計変更できないですが、設計前に他部局が建てるときに行った工夫であったり、こんな課題がありますっていうのを知れたら、よりよい建物が出来る可能性があると思います。

仲下 他部局との情報共有や交流というか、今も私は寒剤供給チームとの兼務にあるのですが、一時期、金属材料研究所の極低温センターで毎週月・金にヘリウム取扱支援を行っていました。 上石さんや柳生さんとすこし話は変わってくるのですが、私の業務で言うと液体窒素を汲みだす際のトラブル情報等の共有は事故を防ぐという意味で大事だと思っています。部局ごとに安全マニュアルがあってその内容は相通じるところもあるので、その利用とセオリーの把握、後は年次講習会を開催など教育体制で情報共有に対応しています。

鈴木さんには、先ほど他部署との連携について伺いましたので、他に何か工夫されていることはありますか? 鈴木 「報告・連絡・相談」、必要なところに必要な情報を伝えてやり取りして、すべて自分独りで判断しなきゃいけないだけに、自分の尺度で測らず客観視してバランス取るようにしています。 かれこれ10年以上も現在の業務を行っており、経験もそれなりに有りますので、ある程度自分での判断はできます。なにより周りに頼れる環境は無いので、自分さえ納得すれば(できれば)それで進められる事がある意味強みですね。業務の中には迷う案件もありますが、女川センターでは直結している研究室の先生方がいらっしゃいますので、しっかりと打合せ、摺合わせを行い、且つ考え方を共有させていただき進めていければ、基本的には間違いはありません。

遠隔地でのご苦労な話をお伺いしましたが、遠隔地ならではのメリットもありそうですね。 鈴木 業務には責任を伴いますが、基本的には自分の裁量でできるので自由度は高いです。しかし一抹の孤独感を感じる事も多々あります。

未来を見据えて始動

今後の目標や、取り組みたいこと、または要望などがあればお聞かせください。 仲下 目標というのもなんですが、通常業務をトラブルなくこなすことです。現在の業務を4年担当して慣れが出てきているとも感じているので、改めて手順等の見直しをし、余裕をもって業務に取り組めるようになりたいと思います。

柳生 私は学生の時から通研に在籍していて、通研にいる時間が長いので、時々は青葉山キャンパスなど別の部局にも顔を出せるようになりたいと思っています。技能面では、センサーとプログラミングでヘリウムガスの検知データを自動で取得していますが、前世代的な目視で監視する設備がまだまだ多いので、そのデータ自動取得を応用して設備監視のオートメーション化を進めて効率化を図りたいと考えています。

上石 業務の効率化というのが、常に自分たちの課題になってくるかなと考えています。日常業務の問題点を見つけて改善し、業務効率化していくというのが技術職員の職分ととらえていますので今後も実施していきたいです。

鈴木 塩害により劣化した各設備機器の機種更新や、施設内照明のLED化を進める事が重要ですので、状況を逐一把握し、必要時には関係各所に働き掛けが出来る様に準備を進める事が目標となります。

前田チームリーダーからのメッセージ 前田 本チームは、担当している業務もバラバラに見えますが、よりユーザーに近い位置で日々起こる事項(トラブル等も含む)に臨機応変に対応しているというのが共通事項としてあります。現場でのトラブルは、一見無関係と思われるようなことに連動することもありますし、経験値の積み重ね、それらを共有するのが重要です。国際卓越大学に認定されたことで、周辺環境が劇的に変わっていくことも考えられます。そういった中で柔軟にスピード感をもって対応できる職員は必要になってくると思いますので、チーム内での情報共有をすすめてレベルアップを図っていきたいと考えています。

撮影・取材:広報担当部会取材班

Profile

  • 前田桂史
    まえだ・けいじ
    安全・保守管理群 副代表 施設運用グループ 施設総合管理チーム チームリーダー 技術専門員
    未来科学技術共同研究センター
    青森県大鰐町出身 2000年度採用
    安全衛生管理、施設設備の保守、研究プロジェクト支援
    趣味は自宅のスマートホーム化のシステム開発

Profile

  • 鈴木善幸
    すずき・よしゆき
    安全・保守管理群 施設運用グループ 施設総合管理チーム 技術専門職員
    農学部・農学研究科
    宮城県出身 2009年度採用
    施設・船舶の維持管理業務、センターに係る事務業務、環境整備業
    趣味はキャンプ、焚き火、野菜作り、漬物

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  • 仲下正輝
    なかした・まさてる
    安全・保守管理群 施設運用グループ 施設総合管理チーム(寒剤供給チーム(兼任)) 技術専門職員
    多元物質科学研究所(2020年度~、~2019年度 工学研究科)
    北海道出身 1997年度採用
    ~2019年度は実験装置製作・安全衛生管理、2020年度は寒剤管理
    趣味はドライブと読書(自動車・飛行機・鉄道関係)

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  • 上石正樹
    あげいし・まさき
    安全・保守管理群 施設運用グループ 施設総合管理チーム 技術専門職員
    未来科学技術共同研究センター
    福島県出身 2009年度採用
    安全衛生管理、施設設備の保守、研究プロジェクト支援
    趣味はウォーキング

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  • 柳生寛幸
    やぎゅう ・ひろゆき
    安全・保守管理群 施設総合管理グループ(安全衛生管理グループ(兼任)) 技術専門職員
    電気通信研究所
    北海道出身 2016年度採用
    6年間の事務部勤務(用度係)を経て現在は電気通信研究所研究基盤技術センターで主に安全衛生関連の業務を担当
    趣味はオーディオや楽器の収集

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  • 安全・保守管理群