#01

技術とひと

2022.09.15

学生の支援のために ― 自己研鑽の先にあるもの ―

令和4年度文部科学大臣表彰にて、電子回路・測定・実験群所属で、流体科学研究所に配属されている奥泉寛之さんが研究支援賞を受賞しました。 そこで、受賞までの経緯や、普段の業務の様子、今後についてお話を伺いました。(取材日 2022年7月22日)

受賞につながる、普段の業務

流体科学研究所(以下、流体研)に配属されてからの業務について教えてください。 最初は風洞実験室を管理されていた小濱泰昭先生の研究室に配属されて、学生さんと一緒に風洞実験室の研究に関わっていました。配属されて一年後くらいから風洞実験室を貸し出すようになり、現在は共通利用施設となった風洞実験施設で実験のサポートをしています。研究室にも配属されていますが、風洞実験施設にいることがほとんどです。 低乱風洞実験施設は、以前は共通利用施設ではなかったのですね。どのような経緯で共通利用施設となったのですか。 先生の共同研究先の企業の方が自動車の実験などで利用することはあったのですが、地元の企業にも利用してもらいたいということで、今所属している研究室の大林茂先生が中心になって、文科省の共用促進事業に応募・採択されて今の共通利用施設の形となりました。 現在は教員の方がメインで風洞実験施設の実験全体を統括されていますが、私は実験の実動面で直接的なサポートをしています。 受賞テーマ「磁力支持天秤装置(※)による風洞実験高度化と施設共用化への貢献」について教えてください。 二つのテーマを入れて申請しました。一つが共用化で、先程お話しした通り、地元企業の方々にも使っていただくことで、地域貢献、社会貢献ができるようにという目的で、そのお手伝いをさせていただきました。 もう一つは、磁力支持天秤装置という装置内で航空機模型を磁力だけで傾け、航空機が角度をつけて飛ぶ様子を再現する実験です。磁力支持天秤装置は昔からある装置で、導入された先生と学生さんと一緒に実験を進めていくなかで新しい技術開発につながりました。


(※)磁力支持天秤装置
風洞で計測される物体は通常、壁面から支持棒などで風洞内に固定されるが、磁力支持天秤装置では磁力を用いて風洞内の空中に浮上した状態に固定することができ、支持棒の影響を受けずに計測を行うことが可能。

この磁力支持天秤装置の運用などで苦労されたことはありますか。 メリットでもありデメリットでもあるというか…。支えなどをつけず磁力だけで模型を浮かせるので、本当に飛行機が飛んでいるような状態を再現できることが一番の売りなのですが、逆に何もついていないので、少しでも制御がおかしくなれば落下して模型を壊してしまいます。模型が壊れないよう、制御することが本当に大変でした。 模型は市販品ですか。 模型は研究室で作る部品と、外注の部品を組み合わせて作ります。学生さんが設計を担当して3Dプリンタで作るもの、流体研工場に依頼するもの、企業に外注するものと様々で、素材もいろいろ組み合わせて作っています。 装置の調整によって一回で何十万円もするような模型が壊れてしまうので、私や学生さんの精神的なダメージは大きいですね。一方で、この実験装置は模型が壊れることは仕方ないという前提なので、何度も経験するうちに慣れてくるというか…(笑)。

受賞のもう一つのテーマの施設共用化ですが、流体研の施設のアピールポイントは何でしょうか。また、競合するような施設はありますか。 流体研の風洞実験施設のいちばんの特徴としては、風速が速いという点です。80m/sまで出るので耐風試験のような案件でこちらを使っていただくことが多いですね。 もうひとつの特徴が、時間的にも空間的にも風速の一様性が優れていることですね。また、磁力支持天秤装置では支えの棒が必要ないので、真の空気から模型が受ける力をとれることも売りにしています。 流体研と同じように風洞実験施設を貸し出している大学や国の機関など色々ありますが、競合というより、お互いに協力して貸し出す『風と流れのコンソーシアム』という枠組みがあり、流体研も参加しています。例えば東京の案件でも、流体研の風洞の方が適している場合はこちらの施設を使用していただき、流体研で受けた案件でもJAXAでやっていただくようなことがあります。 風洞実験施設での働き方、やりがい等はどうですか? 非常に楽しくやっています。何回も行われている実験で、すんなり進むものもそれで良かったと思うのですが、初めての実験やトラブルが発生したときに、学生さんと一緒になって考えて、教員にも相談して試行錯誤して何とかうまく行ったときは、特にやりがいを感じますね。

総合技術部の組織改革の流れのなかで

流体研は研究室の実験をサポートする技術職員が多いのですが、共通利用施設にいて利用者を支援するという総合技術部が考える技術職員の在り方とは逆ですよね。そのことについて感じることや、やりにくいと感じることはありますか。 逆である雰囲気は感じます。ただ、私は研究室に配属されてはいますが、共通利用施設で業務を行っているので、結果的に研究室のスタッフでもありながら共通利用施設の業務をするというありがたい環境にいるのだと思います。今のところ特にやりにくいと感じることもないですね。もし研究室メインの業務でしたらギャップを感じるのかもしれません。 総合技術部について思うことはありますか。 研修などを多く開催していただいているので、充実していてありがたいと思っています。今後も研修を受講しようと考えています。

働き方と今後の展望
学生の研究をよりよくサポートするために

在職したまま博士の学位取得が可能な、いわゆる社会人ドクターとして、現在、博士課程にいらっしゃると伺っていますが、ご自身の研究テーマについて教えてください。 個人の研究として、球を磁力支持天秤装置でグルグル回転させながら風の中で浮上させて、その時に球に働く空気力や周囲の流れの様子を調べることをテーマにしています。回転球の正負のマグナス力の発生条件など空力特性について明らかになっていないことを解明したいです。またゴルフボールや野球ボールのような形状や、台風・竜巻での飛散物の代表的な形である角柱状の物体を磁気浮揚させる技術に発展させられれば、スポーツ分野や強風災害対策などへも貢献できると考えています。先生からこの研究テーマと科研費応募のお話をいただいて、以前は若手研究、今年度から基盤(C)の科研費に採択されて研究をしています。 博士課程については先生から「せっかく色々やっているのだから、ドクターに」というお話をいただきました。なかなかない機会なのでちょっと頑張ってみようかなと思って博士課程に進みましたが、色々と不安も(笑)。 講義や研究室のゼミへの参加、学会発表などやることが沢山ありますよね。 社会人ドクターのため、先生からご配慮をいただいているので、今のところはゼミなどに負担を感じることはありません。講義は集中講義を取れば必要単位を取得できるので、毎週講義を受ける必要もないですね。 今年度、博士課程に入ったばかりとのことですが、時間や金銭的なことで困っていることはありますか。 業務時間に研究はできないので、夜に行うことになりますが、例えば3週間の自分の実験をやらなければいけない時、3週間の夜だけに実験をするのでは間に合わないので、時間的なやりくりがなかなか難しいところです。今は、有休をとって実験に充てることを考えています。 金銭的なことは家族の理解もあり、なんとかなっていますので、やはり一番困っていることは時間でしょうか。 実験施設で業務を行っていらっしゃるので、業務と研究の切り分けが難しそうですが。 業務時間内に自分の研究をすることは無いので、業務時間外に自分の研究をしています。また、業務内容は自分の研究とはまったく別のものです。 業務で学生さんの研究のサポートをされていらっしゃいますが、自分の研究となると気持ちは違いますか。 自分の研究となると非常にプレッシャーを感じますね。学生さんの研究をサポートするときは気持ちとしては楽なので、心持ちは結構違います。学生さんも同じ装置を使っている人たちとでお互い協力し合っていて、自分の研究になると心持ちが変わると言っていたのですが、私も今それを実感しています。 一方で、自分の研究のときだけ実験手順を忘れるとか(笑)、みんなそういうことがあるので面白いですね。 博士課程に進もうと思った一番の動機は何でしょうか。 先生から勧めていただいたテーマの他に、社会人ドクターを取る中で研究をしたり、論文をたくさん書いたりしますが、その経験も学生さんの支援をする際にとても役立つと思ったのです。今までも実験のサポートをしてきましたが、さらにサポートに役立つのではないかなと。 今年度から博士課程に進んだばかりですが、この気持ちは変わっていないです。

最後に、今後の目標や理想のキャリアはありますか。 そうですね…。なかなか難しいですけれど、学生さんが自分で考えて研究ができた方が嬉しいと思うので、教えるというよりも自分で考えられるような動機づけをしてあげられたらよいと思っています。今後もこういった形で技術職員としての支援を行っていきたいです。

撮影・取材:広報担当部会取材班

Profile

  • 奥泉寛之
    おくいずみ・ひろゆき
    電子回路・測定・実験群|技術専門職員
    流体科学研究所 共同利用班 共同利用支援係長
    2008年採用。低乱風洞実験施設にて業務、様々な風洞関連装置に関する実験、計測に従事。 学生、教員の実験に関わるのみならず、自身でもテーマを持って取り組む。 山形県出身。趣味はバイク、好きなメーカーはKAWASAKI。忙しく中々趣味に 掛ける時間が取れず、バイクに乗れるのは通勤時のみであるのが目下の悩み。